のら犬シリーズ のら犬のひとり言  髙田春彦


1《椅子》

椅子がストライキを起こした

椅子という椅子が建物から外に出て行進を始めた

もっと待遇を良くしろ

椅子たちの要求は 自分たちも座りたいというものであった

 

2《思い込み》

だます人とだまされる人がいる

待たす人と待たされる人がいる

だます人がいなくてもだまされる人がいる

待たす人がいなくても待たされる人がいる

 

3《トンネル》

山道の行く手にトンネルがあった

ずっと先に出口の光が丸く見える

男はトンネルに入った

進むにつれ出口の光は小さくなった

男はどこまでも進んだ

そしてついに出てこなかった

 

4《シャボン玉》

シャボン玉の木にはシャボン玉の花が咲く

風の強い日枝だけになる

でもすぐ新しい花が咲く

シャボン玉は一年中咲く

時々枝ごと空を飛ぶ

 

5《電車》

ラッシュアワーの電車から人が吐き出される

いつか俺の口から電車を吐き出そう

 

6《カワズ》

井の中のカワズが井の外に出た

外の世界で修行して一流のカワズになった

鼻を高くして井の中に帰った

井の中では一流が理解されなかった

それどころか周囲はあわれんだ

あんなに鼻が高くなってしまったなんて

 

7《こうかい》

陸だと思っていたところは海だった

海だと思っていたところは砂漠だった

どうりで船がうまく進まない

 

8《解体》

目は目 口は口 手は手 足は足 胴は胴

解体される まぐろとマネキン

 

9《頭》

割ってしまえばそれっきり

割らずに育てるとろくでもないことを考える

 

10《目玉》

目玉たちが遊んでいる

時々ケンカをするとお互いにののしり合う

お前のようなみっともないやつは見たことがないと

はたから見ると両者は区別がつかないほど似ている






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