のら犬シリーズ  のら犬のひとりごと 4 髙田春彦


のら犬のひとりごと 4

31. 牛乳瓶

マンションの屋上から牛乳瓶を投げた

駐車場のアスファルトでスコーンと粉々に散った

花火のようだ

 

32. 文明

科学の力はすごい

情報は瞬時に飛び交い人を宇宙へ運ぶ

何でも出来そうだ

人間を作り出せないのが不思議だ

 

33. ソクラテス

やせたソクラテスが太った豚に言った

お前はなぜそんなに太っているのか

豚は答えた

好き嫌いの激しいあんたが残飯を山ほど残してくれたからさ

 

34. 記憶

五年前に通った道

並木は大きく成長していた

幹に彫り刻んだおれの記憶は

手の届かないところにあった

 

35. 吊り革

この先カーブです

吊り革におつかまり下さい

乗客はアナウンスを無視

ほとんどの人は吊り輪につかまっていた

 

36. 思い込み

思い込むと

それがその人にとって真実となる

面白いことだ

気の毒なことだ

 

37. 生える

桃の実が落ちた

数年後桃ノ木が生えた

ビルの屋上から人が落ちた

花壇の土にすっぽり埋まった

数年後骨の木が生えた

 

38. 身軽

突然身が軽くなった

体重が減ったのではない

持っていた荷物が半分になった気分だ

体の中に張っていた悩みの種の枝が

栄養不足で枯れ落ちた

 

39. ヌーディストクラブ

裸のどこが悪い

人間みんな裸で生まれたんだ

まあそう言わないで下さい社長

うちは下着会社なんですよ

 

40. ブロンド

女の子がブロンドに染めている

あなたは日本人なのになぜブロンドに染めているのですか

日本人だからよ






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