のら犬シリーズ  のら犬のひとり言 5  髙田春彦


のら犬のひとり言 5

 

41. 道路

そこのけそこのけ車のお通りだ

人や自転車は脇へ寄れ

道は人間を蹴散らし文化をなぎ倒して

我が物顔にふてぶてしく伸びる

 

42. 名作

名作が出来た

作家はうれしくてふれまわった

うわさを聞いて昔の知人が訪ねてきた

玄関先に出てきた作家を見てびっくり

君は死んだのではなかったか

 

43. 名答

どうして男の子にはおちんちんがあるのに女の子にはないの

決まっているさ

両方ともにあったらどっちが男の子か女の子かわからないじゃないか

 

44. 願い事

流れ星を見た女の子

密かに願い事をした

翌日女の子は死んだ

 

45. 励まし

いつも威勢がいいのに今日はどうした

元気を出せよと勢いよく背中を叩いた

そいつは悲鳴を上げて電柱にしがみついた

ぎっくり腰で医者に行くところだった

 

46. あり

水面にありの乗った木の葉が漂う

誰も助けは来ない

ありは絶望して身を投げた

 

 

47. 直線 曲線

直線思考は現代的

曲線思考は人間的

曲線は直線に憧れ

直線は曲線に憧れる

 

48. 絵

絵を切り取ると絵は壊れる

しかし

切り取った方が見えてくる絵もある

 

49. きれい

「あなたきれいね」

「そうかしら」

「あなたきれいよ」

「そんなこと言われたのはじめて」

「どうみてもきたなくはないわ」

 

50. 山道

杉木立の山道に一人の旅人

蓑笠わらじに脚絆姿

真正面から道一杯にバスが来る

旅人は気にせず歩き続ける

危ない

次の瞬間お互いに素通りしてしまった

旅人は200年も前の人間だった






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